心房細動とは
不整脈とは、通常の心臓の電気信号が正常に流れない場合に生じます。通常よりも脈が速くなるものを頻脈性不整脈、遅くなるものを徐脈性不整脈と言います。
不整脈には様々な種類がありますが、頻脈性不整脈の中で現在最も多いのが心房細動です。心房細動は、心房という心臓の上のお部屋に流れる電気信号の乱れによって生じる不整脈で、心房が本来は一定の間隔で拡張・収縮を繰り返すところが、小刻みに震えるだけの状態になり、十分に機能しなくなります。
心房細動の有病率は、年齢が進むにつれて上昇します。高齢化に伴い、心房細動の有病率は増加していますが、スマートウォッチや携帯型心電計などにより心房細動の検出が増えたことも要因としてあります。
原因、リスク因子
心房細動のリスク因子としては、高血圧、心疾患(心不全,冠動脈疾患,心臓弁膜症)、肥満、睡眠呼吸障害、糖尿病、尿酸、喫煙、アルコール消費などが挙げられ、生活習慣関連の因子が多く含まれています。
症状、合併症
心房細動は、脳卒中、心筋梗塞、心不全、および死亡などの心血管有害事象のリスクと関連します。
血栓症
心房細動では、心房の収縮能低下と心房拡大が生じることにより、心房内で血液のうっ滞を起こし、特に左心耳と呼ばれる左心房に付いた袋状の部分において血栓ができやすくなります。
心臓にできた血栓が脳血管に飛んでいくと脳梗塞を引き起こします。心房細動の患者さんは心房細動がない方に比べて、5倍脳卒中を発症しやすいといわれております。心房細動が原因の脳梗塞は脳梗塞全体の20〜30%を占めるとされており、さらにその内の90%以上が左心耳内にできる血栓が原因とされています。
また、脳梗塞は、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞の3大病型に分けられますが、このいずれとも診断できない塞栓源不明の脳梗塞が一定割合で存在し、その原因の1つとして未診断の心房細動(潜在性心房細動)が考えられています。
心房細動が原因で起こる脳梗塞は、命に関わるだけでなく、重い後遺症を残して寝たきりや介護が必要になることもあります。
動悸、心不全
多くの心房細動患者において、動悸や胸部不快感などの胸部症状や、頻脈が続くと心不全になることがあり、生活の質(QOL)が低下します。
認知機能低下
心房細動と認知症の関連は最近大きな注目を集めており、たとえ抗凝固療法を行っていても、認知機能低下や血管性認知症が生じ得ると言われています。
治療
心房細動の治療には、薬物治療、非薬物治療(カテーテル治療、外科治療)があります。心房細動による症状の評価や、心房細動の罹患年数、心電図波形や基礎心疾患の有無、などを基に、薬物治療、電気的除細動、カテーテルアブレーション、外科的手術などの適応を判断します。
また、平行して、心房細動のリスク因子の是正、つまり、生活習慣の改善や、基礎心疾患の管理を行います。
心房細動に対する薬物治療
抗凝固療法
心房細動では、上述した心臓内の血栓形成による脳梗塞などの塞栓症を予防する治療が推奨されます。血栓塞栓症の危険度を点数化したCHADS2スコアを用いて評価し、リスクのある患者さんには抗凝固療法(血液をサラサラにする薬)を開始します。
年齢、体重、腎機能、肝機能などを考慮して投与量を調整します。
貧血や出血を伴う疾患を有していたり、他の疾患で検査や手術を受けたりする際には、出血リスクを減らすために中止せざるをえないこともあります。
脈拍数コントロール
心房細動では、頻脈による動悸症状や、それによる心不全症状を抑えるために、上述した抗凝固療法に加えて、脈拍数の調整を行います。
リズムコントロール
心房細動を洞調律(正常な脈)に戻し、維持しようとする治療です。
心房細動の薬物療法は、抗凝固療法と脈拍数コントロールが基本となりますが、血栓予防のための抗凝固薬を飲み続ける負担や、心房細動による症状のために生じる負担のために、洞調律に戻すことの臨床的意義は大きいです。リズムコントロールには、抗不整脈薬などの内服による薬物治療と、カテーテルアブレーションや外科的アブレーションなどの非薬物治療があります。
心房細動に対する非薬物治療
心房細動に対する非薬物治療には、(1)心房細動を停止させて洞調律に戻すためのリズムコントロールを目的としたカテーテルアブレーションや外科的アブレーションと、(2)心原性脳梗塞のリスクを減らすための左心耳切除術あるいは閉鎖術、があります。
心房細動の発症・維持には、トリガー(心房細動の引き金となる期外収縮)となる異常興奮(自動能/ 自動興奮)の発生と、リエントリーが成立するための不整脈基質の形成が関与しています。トリガーはリエントリーの引き金であり、その約90%は肺静脈周囲から生じます。
カテーテル治療や外科治療は、これらの異常な電気興奮の発生場所や異常な回路に対して、焼灼または冷凍凝固を行うことで、電気的な流れを断ち切り、不整脈を抑える治療です。いずれにおいても、心房細動の主なトリガーとなる肺静脈周囲を電気的に隔離する肺静脈隔離術が基本となります。それに加えて外科治療では、肺静脈隔離に加えて、左右の心房に対して迷路状に電気的な隔離を行う Maze 手術という治療を行う場合もあります。心房細動の種類(発作性、持続性など)や罹病期間、心房の大きさ、合併する心疾患などをもとに、適応を判断します。
左心耳切除術、左心耳閉鎖術
心房細動の患者さんでは、血栓を予防するために、抗凝固薬(血をサラサラにする薬)による予防治療を行いますが、その反面、抗凝固薬は出血などの副作用を引き起こすことがあります。特に、出血を伴う病気や、腎臓病・肝疾患などのために抗凝固薬のコントロールが安定しないなどの理由で、長期の抗凝固薬の服用が困難な患者さんがいます。
そのような患者さんでは、脳梗塞予防のための抗凝固療法の代替療法として、左心耳との交通を無くす左心耳閉鎖術が適応になります。血栓ができる心臓内の部位の9割以上を占める左心耳を閉鎖することで、心原性脳梗塞のリスクを大きく減らすことができ、また抗凝固薬の内服を中止することもできます。
左心耳閉鎖の方法としては、① 経皮的左心耳閉鎖術(カテーテル治療)、② 開胸や胸腔鏡下での左心耳閉鎖(または切除)術、があります。
経皮的左心耳閉鎖術 (WATCHMAN 左心耳閉鎖デバイス : Boston Sientific社)
開胸手術時の左心耳切除術
胸腔鏡下手術時の左心耳閉鎖術 (左心耳閉鎖用クリップ : Century Medical社)
左心耳は心臓の機能に大きく影響しないことが分かっています。左心耳切除術・閉鎖術は、安全かつ短時間で実施できるうえ、脳梗塞に対する予防効果もあるからこそ、当院では国内でいち早く取り入れ、開胸や胸腔鏡下での心臓・大血管の手術時に、心拍動下(心臓を止めない)手術も含めた大部分の症例で同時に左心耳切除術や閉鎖術を行っています。
また、開胸や胸腔鏡下での左心耳閉鎖術は、他の心臓・大血管の手術と併施する場合に限り保険適応となっていましたが、単独手技としての胸腔鏡下左心耳閉鎖術が、2022年4月の診療報酬改定により公的医療保険で手術可能になりました。
胸腔鏡下左心耳閉鎖術の方法やカテーテル治療との違いについて、詳しくはMICSの胸腔鏡下左心耳切除の項をご参照下さい。
心房細動と言われた方、心房細動の治療中で今後のことに不安がある方は、ぜひ一度当院ハートセンターへご相談ください。